対物賠償保険が無制限なのに、対物超過修理費用補償特約はなぜ必要?判例や上限などを解説

対物超過修理費用特約の必要性とは

「対物超過修理費用補償特約って付帯する意味はあるの?」

「対物賠償保険で無制限に補償されているんだから、必要ないのでは?」

と、上記のように思っている人は多いようです。結論から言ってしまうと、対物超過修理費用補償特約は、対物無制限であっても、必要な特約だと言えます。

なぜなのでしょうか?

それは対物賠償保険を無制限に設定していても、補償されるのには上限があるからです。

『無制限なのに上限がある』とだけ言われても、よくわかりませんよね。「どういうことなんだろう?」と、不思議に思ってしまう人も少なくありません。

そこで今回は、対物超過修理費用補償特約を付帯するメリット、法律や判例ではどうなっているのかなど、気になるポイントをまとめてみました。是非、自動車保険加入時の参考にしてみて下さい。

対物超過修理費用補償特約とは?|対物賠償保険の補償を上乗せできる

対物超過修理費用補償特約とは、車同士がぶつかる事故などで受けた相手の車の損害を補償する特約です。

通常、車対車などの事故が起きた場合、自分の対物賠償保険で相手の車の損害を補償するわけですが、この保険に加入しているだけでは十分な補償とならない場合があります。なぜなら、対物賠償保険を無制限にしても、補償は「時価まで」という上限があるからです。

冒頭でお話した「無制限なのに上限がある」というのは、「時価額」が絡んでいるために起こってしまうことなんです。「対物賠償保険を無制限に設定しているから事故を起こしても補償は大丈夫」とは言えないのです。

しかし、対物超過修理費用補償特約を自動車保険に付帯することで、補償を手厚くすることができます。対物賠償保険の保険金に上乗せした形で、保険金が支払われます。

相手の車への補償|法律や判例ではどうなっているの?

「損害が補償されるのは時価額まで」というのは、過去の判例を見ると明らかです。

・・・いわゆる中古車が損傷を受けた場合、当該自動車の事故当時における取引価格は、原則として、これと同一の車種・年式・型・同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額によって定めるべきものであり、右価格を課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によつて定めることは、加害者及び被害者がこれによることに異議がない等の特段の事情のないかぎり、許されないものというべきである。

最高裁 昭和49年4月15日判決【交民集7巻2号275頁】

上記の最高裁判例を見ると、修理ができない状態ではなくても、相手方(被害者側)が損害を受けた車を売り、車の事故直前の時価と売却した金額の差額が損害賠償金額として認められています。

「時価」の算出方法を市場価格方式(中古車市場での取得価格)としているところが興味深いところでもあります。

【参考】自動車が全損した場合の損害賠償額

交通事故で車が壊れてしまった場合、損害賠償額としては、

  • 修理費相当額になる
  • 修理費が自動車の時価を上回る場合(経済的全損)や修理ができない場合(盗難など)は自動車の時価となる

というのが基本となっています。

相手の車が新品自動車だったとしても、損害額は修理費相当額というのが原則となっています。

自動車の時価とは?|車の時価は年々減る

交通事故によって車が壊れてしまった場合、損害賠償額は修理費相当の金額、もしくは、修理費が自動車時価を上回ってしまった場合は自動車の時価となります。

時価相当額とは、その車を下取りとして出したときの査定額ではありません。その車と同じ価値を持った車を再調達する金額となります。買い替えに必要な費用も損害として認められますから、納車費用や車庫証明手数料、廃車にした場合は廃車費用といったものが認められたりします。

相手方(被害者側)車両の時価の算定方法としては、レッドブック(オートガイド自動車価格月報)やイエローブック(中古車価格ガイドブック)、裁判上の鑑定などの方法があります。

ところで、新車登録をしてから10年以上経過すると、査定額がほぼゼロという状態になりますが、実際には車の損害がゼロとは言えない部分があります。この場合は、使用価値相当額が事故に遭った際の自動車価格となったりもします。もし、争うことになったら、少額の争いでも交通事故に詳しい弁護士など専門家に相談するのが得策と言えます。

車の平均使用年数と車の時価額

技術向上によって自動車の燃費や性能などが、年々上がっています。昔よりも車は壊れにくくなりました。また、一般的に日本人は海外の人と比べると、車を大事にしている人が多いです。車の平均使用年数は伸びていると、容易に想像することができます。

実際に平均使用年数の表(日本自動車検査登録情報協会調べ、単位:年)を見てみると、明らかに伸びていることがわかります。

車種
乗用車 貨物車
乗用車計 普通車 小型車 貨物車計 普通車 小型車
昭和51年(1976年) 6.90 7.05 6.79 6.48 6.27 6.49
平成8年(1996年) 9.27 7.75 9.33 9.60 10.50 9.38
平成25年(2013年) 12.58 12.99 12.32 13.24 15.65 12.39



乗用車の平均使用年数は、昭和51年では6.9年、平成25年では12.58年となっていますから、およそ2倍に伸びていることがわかります。

事故を起こした際、相手方の自動車が古いということも珍しくありません。

ここでさらに、国税庁のホームページを見てみます。自動車の耐用年数が載っているのですが、例えば、普通自動車の場合、耐用年数は6年となっています(一般用のもの(特殊自動車・次の運送事業用等以外ののもの) > 自動車(2輪・3輪自動車を除く。) > その他のもの > 6年)

普通自動車は、6年かけて減価償却していくことになります。つまり、6年経てば、税法上では価値がないものとして扱われます。

これを自動車保険の観点から見ていくと、どういうことになるのか。交通事故を起こした際、

修理費用>車の時価額

となってしまい、『相手の車が全損(全損扱い)となる可能性が高い』ということになります。

すでにお話したように、修理費が自動車時価を上回ってしまった場合は自動車の時価までしか補償されません。これを経済的全損と言ったりしますが、対物賠償保険を無制限にしていても、修理費用が十分に補償されないということが容易に起こったりします。

示談交渉と対物超過修理費用特約

交通事故で自分の自動車が壊れてしまうと、修理では納得できないという人が多いです。事故車が新車の場合は「新しい車にしてほしい」と言う人もいるくらいですから、修理費用を全て払えないと、交通事故解決が長引いたりします。

法的には、車の損害は修理費と車両の時価のどちらか低い方を賠償すればいいことになっていますが、「時価額を払いさえすればそれでいい」ということには、なかなかならないのが現状です。

対物超過修理費用補償特約を付帯するメリットとは?

ここで、おさらいをしておくと、相手方の車の補償は次のようになっています。

事故を起こした場合、相手方の車への補償
対物賠償保険 時価まで
対物超過修理費用補償特約 時価を超える50万円まで(対物賠償保険の補償に上乗せできる)

例えば、信号待ちをしている止まっている車に、自分の不注意でぶつかってしまったとします。この場合、自分に100%の過失があるということになります。

法律上では、賠償責任額はその車の時価額までとなっていますから、対物賠償保険で支払われる保険金も時価額までとなります。

追突した相手の車が古いと、修理する金額よりも時価額が低くなることがあります。この場合、修理費のすべてを対物賠償保険で補償することができないのでトラブルになりやすいです。

対物超過修理費用補償特約を付帯すると、時価を超える50万円まで補償されます。法的には時価までとなっていますが、示談交渉をスムーズに進めて、交通事故を円満に解決するために必要な特約と言えます。

対物超過修理費用補償特約での補償の例

具体的には、次のような事故のケースが考えられます。

自分の過失が100%、相手方0%の場合
  • 事故車を修理する費用:70万円
  • 事故車の時価額:40万円
  • 修理費用と時価額の差額:30万円

上記の場合、対物賠償保険で補償されるのは時価額の40万円だけです。修理費用70万円全額は損害として認められません。よって、差額の30万円は被害者が自己負担することになります。

被害に遭った人からすれば、自分は悪くないのに、修理費を自分で負担することになるのは納得できないということになります。

ここでもし、対物超過修理費用特約に入っていれば、時価額を超える50万円までは保険金が出ますから、差額の30万円も補償されることになります。

【修理する場合】過失割合に応じた補償の例

相手にも過失がある事故のケースを見てみます。過失割合が7:3の場合はどうなるでしょう。

自分の過失が70%、相手方30%の場合
  • 事故車を修理する費用:70万円
  • 事故車の時価額:40万円
  • 修理費用と時価額の差額:30万円
↓↓↓

対物賠償保険で、40万円(時価額)×70%=28万円補償

対物超過修理費用特約で、30万円(差額分)×70%=21万円補償

対物超過修理費用特約で補償を受ける場合、修理費用と時価額の差額30万円に自分の過失割合70%を乗じた金額が、保険金として支払われることになります。

もし、対物賠償保険のみ加入ということになると、時価額までしか保険金は支払われません。よって、28万円だけしか受け取れないということになります。

対物超過修理費用補償特約の補償限度額や適用条件

対物超過修理費用補償特約の補償限度額や適用条件は、次のようになっています。

1、記名被保険者(主に運転をする人)
2、記名被保険者の配偶者
3、(1)または(2)と同居している親族
4、(1)または(2)と別居している未婚の子
5、主に運転する人が承諾している場合において、契約車両を使用または管理している人
6、(1)の使用者(使用者の業務に契約車両を使用している場合)

車両保険もそうですが、対物超過修理費用補償特約でも、地震、噴火、津波によって生じた損害で、保険金は支払われません。

しかしながら、車両保険とは違い、対物超過修理費用補償特約は、台風、洪水、高潮によって生じた損害では、保険金は支払われないので注意したいところです。

また、『損害が生じた日の翌日から起算して6か月以内に修理を行ったときに限る』というような条件を付けている保険会社もあります。実際に契約する場合には、約款で詳細を確認しておきましょう。

対物超過修理費用補償特約|保険料はいくら?

保険会社によっては、「対物差額修理費用補償特約」や「対物全損時修理差額費用特約」という名称で呼ばれている対物超過修理費用補償特約ですが、保険料としては、いくらかかるのかが気になるところです。

実際にセゾン自動車火災保険で見積もりを取って見た結果、金額としては、次のようになりました。

※ちなみに、セゾン自動車火災保険では対物超過修理費用補償特約ではなく、対物全損時修理差額費用特約という名称になっています。

トヨタ プリウスの場合
  • 見積もりの条件:40代、14等級(見積もり時)、免許証の色ブルー
  • 料率クラス:対物5

対物全損時修理差額費用特約 410円(1年間)となりました。

icon-arrow-circle-right トヨタプリウスの見積もり詳細記事はこちら

日産ノートの場合
  • 見積もりの条件:40代、16等級(見積もり時)、免許証の色ブルー
  • 料率クラス:対物4

対物全損時修理差額費用特約 290円(1年間)となりました。

icon-arrow-circle-right 日産ノートの見積もり詳細記事はこちら


実際に見積もりを取ってみると、対物超過修理費用補償特約の金額としては300円~400円といったところでした。

それほど高い金額でもないので、特約を付帯させておく方が無難だと言えます。

すでにお話したように、車の平均使用年数は年々伸びています。古い車が多いということは、時価額が低いということですから、損害を受けた相手側が修理したいと言った場合、時価額を超えた修理費用が補償されないということも考えられます。

対物賠償保険は時価額までしか保証されません。しかし、対物超過修理費用補償特約を付帯していれば、時価額を超える修理費を50万円を限度に支払ってもらえます。示談となった場合、交渉をスムーズに行うことができます。

対物超過修理費用補償特約は自動付帯になっている保険会社も多いです。ニーズはそれなりにある特約だと言えます。

事故が早期解決する方が精神的負担も少なくなります。対物超過修理費用補償特約を付帯することを、一度検討してみてはいかがでしょうか。


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